リンパ浮腫
1. リンパ浮腫とは
血液のほとんどは心臓のポンプ機能で動脈血として体の隅々まで送られた後、静脈血として心臓に戻りますが、一部は組織に浸み出し、リンパ液としてリンパ管内を通って心臓に戻ります。このリンパ液の流れが阻害された結果、むくみなどの症状が出現することをリンパ浮腫といいます。
発症原因は主に、原発性(もともとリンパ管の機能が弱くて生じるもの)と、続発性(乳癌・子宮癌・卵巣癌・前立腺癌などの悪性腫瘍でリンパ節を切除したり、放射線治療でリンパの通り道がダメージを受けて生じるもの)に分けられます。9割以上が続発性ですが、発症時期には個人差があり、術直後の場合から、十数年経過してからの事もあります。
症状としては、主に片側の腕や脚がむくんで周径が増える・だるさや重さがでるといったものや、皮膚が硬くなったり張る、圧痕(押すと皮膚がへこむ)がついたり多毛になる、といったものがあります。また、蜂窩織炎(リンパ管炎)という発熱を伴う強い炎症を起こすこともあります。
リンパ浮腫はリンパ管の傷みが進行していく変性疾患であり、放置すれば以下のように病期が進行します。
早期より適切な治療を行うことにより、浮腫を軽減し、進行を止めることが可能です。
〈国際リンパ学会による病期分類〉
0期 | リンパ液輸送が障害されているが、浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態。 |
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Ⅰ期 | 比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが,まだ初期であり,四肢を挙げることにより治まる。圧痕がみられることもある。 |
Ⅱ期 | 四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり,圧痕がはっきりする。 症状がひどくなるとだんだんと組織の線維化がみられ,圧痕がみられなくなる。 |
Ⅲ期 | 圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか,アカントーシス(表皮肥厚),脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる。 |
2. リンパ浮腫の治療法
治療法は大きく分けて①複合的治療 ②手術療法があり、これらを組み合わせる事で相乗効果が期待できます。
なお症状によっては保険適応外の治療となることがありますので、 詳細は担当医の先生にお聞きください。
①複合的治療
浮腫軽減のため、以下のような理学療法を行います。
スキンケア
リンパ浮腫の皮膚は乾燥しやすく、バリア機能が低下して感染を起こしやすい状態にあります。炎症を予防するためにも清潔や保湿を心がけたスキンケアが大切です。
リンパドレナージ
セラピストによるリンパドレナージ/ご本人・ご家族によるセルフリンパドレナージがあります。マッサージにより貯留したリンパ液を流します。
圧迫療法
状態に合わせて、弾性スリーブや弾性ストッキング、包帯などを用いて圧迫することでリンパ液の流れが促進され、再貯留を防ぎます。
運動療法
関節や筋肉を動かす運動・体操(ウォーキングや水泳、自転車こぎや軽いエアロビクスなど)はリンパ液や静脈血の流れを促します。
弾性着衣や弾性包帯で圧迫した状態で行うとより効果的です。ただし負荷のかけ過ぎは浮腫悪化の要因になるため、疲労や筋肉痛が残らないよう、無理のない範囲で行うことが大事です。
これらの『複合的理学療法』に加え、日常生活指導を行う『複合的治療』がリンパ浮腫に対する標準的治療となります。これは、浮腫悪化の一因となりやすい心身への過剰な負荷、急な体重増加や体の一部を締め付けるような衣類などを避け、挙上を促すといった日常生活内で注意すべき点につき指導を行うというものです。
②手術療法
リンパ浮腫の標準治療として顕微鏡下リンパ管細静脈吻合術(LVA)があります。これは、リンパ管の流れが悪い部位よりも上流で、近くの静脈とバイパスを作成する手術です。
滞ったリンパ液を流す出口を新たに作成することで、浮腫を改善させます。圧迫療法やリンパドレナージなどと組み合わせて行うことでより効果的なリンパ排液が期待できます。
局所麻酔・小切開で行えるため体の負担は非常に軽い手術となります。
上記手術に加え、浮腫の状態によりリンパ節移植術、脂肪吸引術などの手術も行われることがあります。
2cm程度の小さな切開から、顕微鏡を使ってリンパ管と静脈のバイパスを作成します。 つなぎ方は数種類ありますが、代表的なものとして図のようなものがあります。
3. リンパ浮腫の期待される治療効果
これらの治療によりリンパの排液が進むと浮腫が軽減し、以下のような効果が期待されます。(リンパ管の痛みの状態により効果には個人差があります)
- 周径の減少
- 重さ・だるさが軽減する
- 皮膚の柔軟性が増す
- 蜂窩織炎の頻度が減る
- リンパ漏が止まる
- 日常の圧迫などの負担が減らせる
リンパ浮腫ではなるべく早期から適切な治療を行うことにより、リンパ管の変性を止め、浮腫を最小化、維持することができます。