形成外科で扱う疾患


褥瘡

1. 褥瘡とは

褥瘡とは身体の骨突出部で皮膚や皮下の組織が自分の体の重さで圧迫され局所の血流が遮断され、その部位の組織が壊死に陥り、皮膚潰瘍を生じたもので、進行したものでは骨組織が露出し、治りにくいことが特徴的です。また褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれ、長期間臥床を強いられる脳血管系および脊髄系傷害による麻痺、あるいは老人性精神障害、老衰、悪性腫瘍の終末期など自分自身で体位の変換が不可能な患者さんによく見られる合併症です。

人体の毛細血管圧力は20~30mmHgとされ、これを越えた圧迫が局所に加わると毛細血管が閉塞し血行が障害され、この状態が長時間継続すると褥瘡が発生します。褥瘡発生までの血流の障害時間は、局所に加わる圧迫が弱いと長時間、強ければ短時間に発生します。通常、局所の圧迫継続時間は2時間以内にとどめれば発生を予防できるとされております。 褥瘡予防・治療にあたって、この発生メカニズムを充分に理解することが肝要です。

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2. 好発部位

仰臥位の姿勢で長時間療養、介護を受けると仙骨部、踵骨部、後頭部、肩甲部などの骨突出部に荷重が集中し発生します。また不適切な体位変換では大転子部にも多くみられます。対麻痺、四肢麻痺者は長時間の車椅子など坐位姿勢が原因となり坐骨部に発生します。

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3. 分類

褥瘡は深さおよび創面の色調による2種類の分類方法があり、治療方針すなわち外科的か保存的治療を選択するか、保存的治療ではどのような外用薬剤を使用するかの指針になります。

深さによる分類

幾つかの分類法がありますが、Danielらは以下の5型に分類しております。

1度
骨突出部の皮膚の紅斑と硬結
2度
真皮におよぶ浅い潰瘍
3度
皮下組織におよぶ潰瘍
4度
筋を通過し骨突出部に達する深い潰瘍
5度
滑液嚢、関節、直腸、腟など体腔におよぶ広汎な潰瘍

1、2度までの深さでは局所の圧迫を除去(免荷)し、外用剤で保存的に治療しますが、3度以上の深さの褥瘡は患者さんの状態が許せば外科的治療を行います。

色調による分類

深さの分類で3度以上の褥瘡を保存的に治療すると時間の経過とともに創面の色調は黒色期(皮膚が壊死に陥り黒色となった状態)、黄色期(潰瘍底に黄色壊死組織が残存し、滲出液が増加してきた時期)、赤色期(肉芽組織が増生してきた時期)、白色期(創周辺から上皮形成が起こり始めた時期)と変化し、その時期により適切な外用薬剤を選択します(色調により分類しますが、実際の褥瘡の色は必ずしも名称の通りではありません)。

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4. 保存的治療

保存的治療の適応は基礎疾患が進行性であり、全身状態が不良で手術に耐えられない場合、Danielの分類1や2の真皮表層までの浅い潰瘍やびらんとなります。また手術後に十分な介護が受けられず、術後再発が容易に予測される場合も患者さんの精神的、肉体的負担を軽減する目的で保存的治療を選択します。

保存的治療の要点は、創面局所の血流を阻害しないことが基本で、常時、褥瘡部を圧迫しない状態を維持することが必要です。このため2時間毎に規則的な体位変換を行い、褥瘡創面をベットと接触しないようにします。もし、これが不可能の場合はエアーマット、ウォーターベットあるいはエアーフローティングベッドを使用し創の圧迫の軽減を図ります。また、患者さんの栄養状態を改善することも重要です。

外用薬剤および創傷被覆材:近年種々の皮膚潰瘍治療剤および創傷被覆材が開発されておりますが、1種類の薬剤や被覆材で全ての時期の褥瘡を治療することは不可能であり、創の状態で適切なものを選択する必要があります。

黒色期には壊死組織を外科的に切除します、その後の黄色期には残存する黄色壊死組織を除去する目的で蛋白分解酵素剤を、滲出液が多い創ではデキストランポリマー、デキストランポリマー・ヨード混合剤、ポピドンヨード・白糖混合剤などを、また局所の感染を認める時はスルファジアジン銀が有用です。壊死組織の脱落後、赤色期および白色期では潰瘍の肉芽形成と上皮化促進のために塩化リゾチーム、トレチノイントコフェリル、ブクラデシンナトリウム、また最近発売されたアルプロスタジルアルファデクスやトラフェルミン(ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)などが有効です。

創傷被覆材には創の湿潤環境の保持による肉芽形成の促進と創面の保護を目的としたハイドロコロイド複合膜、ハイドロゲル、ポリウレタンフォーム、アルギネート酸塩などがあり、赤色期から白色期に使用されますが、感染創への使用は感染を悪化するため注意が必要です。

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5. 外科的治療

褥瘡の外科的治療方法は1970年代後半より種々の筋弁、筋皮弁、筋膜皮弁さらに穿通枝皮弁が報告され、これらの応用により格段の進歩を遂げました。これらの方法は、従来の再建法に比べ術後の皮弁壊死、創離開などの合併症が少ない安全性の高い方法で、広範囲の褥瘡にも容易に対応でき、褥瘡切除創を確実に閉鎖でき、安定した術後成績が得られております。 現在までに仙骨、大転子、坐骨部などの部位別に多くの手術方法が開発報告されております。これらの術式は患者さんの基礎疾患とその疾患の将来の回復の見込み、年齢、合併疾患の有無(糖尿病、動脈硬化症、肥満)、麻痺の有無、全身状態、リハビリテーション、褥瘡の大きさなどを総合的に考慮して、術後再発が少なく、患者さんへの肉体的負担の少ない方法を選択します。

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