疾患紹介~こんな病気を治します!


顎変形症

1.概念と解説

顎変形症とは上あご(上顎骨)や下あご(下顎骨)の形や大きさの異常、両者のアンバランスによって咬み合わせの異常(咬合不正)と顔の変形などの症状を示すものです。顎変形症の発生には遺伝的な要素が強いと言われていますが、ほとんどは原因不明です。指しゃぶりや舌の突出癖なども発生要因とする説があります。多くはあごの成長のアンバランスによるものと考えられ、小児期では異常に気付かず、思春期のあごが急成長する時期に症状が明らかとなります。

顎変形症の中には上顎骨の変形、下顎骨の変形、上下顎骨の変形が含まれています。また、成長の過剰による変形と成長の不足による変形にも分類することができます。代表的な顎変形症としては、下顎骨が突き出た下顎前突症、逆に下顎骨が小さい小下顎症、上顎骨が突き出た上顎前突症、奥歯だけが噛み合っていて前歯が噛み合わない開咬症、あるいは左右の顔の大きさが異なる顔面非対称などがあり、それぞれに特有の咬合不正と顔面変形を伴います。

この他にも、上顎骨が下方へ成長して顔が長くなった長顔症候群(long face syndrome)、逆に顔が短くなった短顔症候群(short face syndrome)、上下の前歯が極端に突き出た両顎突出症などの状態もあり、これらのいくつかが混じり合った状態の変形も少なくありません。

主な症状は咬合不正と顔の変形です。ただし、ヒトの歯並びにはあごのズレを多少カモフラージュしようとする作用が働くため、実際はあごが変形しているのに、咬み合わせは正常のように見えることもあります。また、あごの変形によっては、くちびる(口唇)が閉まりにくくなり、無理に口唇を閉じようとするために下あごの先端部に梅干のようなシワが見られることもあります。

また、下あごが小さい人では空気の通り道も狭くなり、寝ている時には大きないびきをかき、さらに、睡眠時無呼吸症候群の原因となることもあります。

また、咬み合わせが悪い人では、危険に直面したときに噛み締めによる下あごの安定が得られず、下あごに骨折を起こしやすいともいわれます。

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2.診断

俗に「受け口」と呼ばれる反対咬合の状態でも、下顎骨が突き出た下顎前突症である場合もありますが、逆に、上顎骨が発育不良によって後退した上顎骨劣成長症である可能性もあります。両者を鑑別するためには、通常の顔と口腔内の診察だけではなく、規格レントゲン像やCTなどで、どの部位に変形があるのかを総合的に診断します。

形成外科医と矯正歯科医、症例によっては言語聴覚士や耳鼻科医とも相談の上で治療法を決定します。治療の目的は咬み合わせと顔貌の両者を改善することにあります。したがって、どの位置にあごを移動すれば、最も良い咬み合わせと顔貌が得られるかを検討します。

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3.治療

咬合不正や顔面変形があごの変形によるものと診断されれば、骨切り術というあごの骨を切る手術を行います。多くの場合は手術前に矯正歯科での歯並びの治療を行うことがすすめられています。

手術前の矯正治療には1年以上の日数を要することも少なくありません。手術では口の中から上顎骨や下顎骨を切って、最も望ましい位置に移動して固定します。全ての操作は口の中から行いますので、顔に傷が残ることはありません。

固定には金属製(チタン製など)や吸収性の小さなプレートやスクリューを用います。手術後には正しい咬み合わせを保持するための後療法を行います。

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4.治療によって期待される効果

咬み合わせとあごの変形が改善されます。あごは顔の大部分を占めるので、容貌も改善します。骨格の移動によって頬の形や鼻や唇も少し変化し、唇は楽に閉じるようになります。

また、変形のために顎関節に痛みなどがあった場合は、これらの顎関節の症状も改善する可能性があります。さらに、小さなあごのために呼吸がうまくできなかった場合などでは、呼吸も改善するようになります。

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5.顎変形症の中で比較的頻度の高いもの各々について

A. 下顎前突症
1.概念と解説

下顎前突症
下顎前突症

下顎前突症とは上あご(上顎骨)に対して下あご(下顎骨)が前方へ突出した状態で、わが国ではあごの変形(顎変形症)の中で最も多いとも言われています。
俗に「受け口」と呼ばれ、あごが突き出ているため相対的に顔の中央部は陥没しているように見え、三日月様の顔とも呼ばれます。下顎前突症は下顎骨の成長過剰によって起こり、多くは12歳~15歳頃の成長期に次第に下顎の突出が目立ってきます。ただし、ヒトの歯にはあごのズレを補おうとする作用(歯の代償適応)が働くため、明らかな下顎前突症でも上下の前歯の切端が合っているように見えることが少なくありません。
下顎骨の突出が強い場合は奥歯の数本しか噛み合っていませんので、麺類などは舌を使わないと噛み切ることができません。また、言葉を喋る時にも舌を使うため、特有の話し方になります。左右のあごが不均一に過剰な成長を起こすと、あごが左右に偏位した前突症になります。
2.治療
軽度の下顎前突症では矯正歯科治療での咬み合わせ(咬合)の改善を図るという選択肢もありますが、下顎前突の多くは骨切り術という手術治療の対象になります。正常な咬み合わせと最も好ましい顔貌を得るためにあごをどの程度移動すべきか、形成外科医と矯正歯科医とが相談して決定します。多くの場合、前に述べたような歯並びの異常が存在するので、手術に先立って矯正歯科治療が必要になります。
手術前の矯正治療には1~2年の期間を要します。手術では下顎骨を切ることによって、人工的に骨折を起こさせて下顎骨を正しい位置へ移動します。移動後はプレートやスクリューで固定を行います。
手術後は骨切り部の安静のための後療法を必要としますが、口から食物を摂取することは可能です。下顎骨の突出が著しい場合や上あごにも変形が認められる場合は、上あごの骨切り術を同時に行うこともあります。骨切りの手術には2週間前後の入院が必要です。
3.治療による期待される効果
咬み合わせが正常となることで、良く咬めるようになり、喋りかたも改善します。あご関節の痛みが良くなることもあります。突出した下あごは後方に移動し、相対的に頬がふっくらとして、やや丸く見えるようになり、全体として容貌は改善します。
B. 上顎前突症
1.概念と解説

上顎前突症
上顎前突症

上顎前突症とは下あご(下顎骨)に対して上あご(上顎骨)が前方へ突出した状態で、俗に「出っ歯」や「反っ歯」と呼ばれます。
我が国では比較的多い変形で、上顎が突き出ているため、相対的に下顎骨が後退しているように見えます。上顎骨が突き出ているのか、あるいは下顎骨が後退しているのかの鑑別には診察やレントゲン撮影が必要です。上顎前突症は上顎骨の成長過剰によって起こる変形で、指しゃぶりや爪噛みの悪習慣が発生の誘因になる可能性も指摘されていますが、ほとんどは原因不明です。上顎の前歯部分だけが下顎に対して突出した場合と、上顎骨が全体的に突出している場合があります。ひどい場合は下顎の前歯が上顎の前歯後方の歯ぐきにあたります。上顎の前歯は強く傾斜して前方へ突き出しており、くちびるが閉じにくくなります。
下あごの先端にはくちびるを無理に閉じようとするために梅干しのようなシワが見られ、下くちびるは上顎の前歯にあたって捲れます。また、しばしば笑うと歯ぐき(歯肉)が剥きだしになるため、ガミースマイル(歯ぐき笑い)とも呼ばれます。
2.治療
軽度の上顎前突症では矯正歯科治療で前歯突出の改善を行います。前歯のみの突出の場合は、左右の側方の歯(多くは前から4番目の第1小臼歯)を抜いて前歯部を下げます。抜歯後の治療には矯正歯科治療と手術の2つの方法があります。矯正歯科治療による方法は手術をせずに済むことが最大の利点ですが、治療には時間がかかります。
手術は抜歯した部分の骨を切除して前歯部分を後方に移動します。手術の利点は抜歯も含めて一回で後方移動が行われるため短期間で治療が終わることですが、欠点は全身麻酔での手術と入院を要することです。
上顎骨全体が突き出ている場合は、前記とは別の手術で上顎骨を後方に移動し、金属などのプレートで固定を行います。この手術では手術の前後に矯正歯科治療による歯並びの矯正が必要です。骨切りの手術には2週間前後の入院が必要です。
3.治療による期待される効果
突き出た上顎の前歯が目立たなくなり、上あごが突出した変形もなくなり、上顎と下顎の調和がとれて容貌は改善します。とくに、くちびるが閉じやすくなります。
C. 両顎前突症
1.概念と解説

両顎前突症
両顎前突症

両顎前突症とは上あご(上顎骨)と下あご(下顎骨)の歯が前方へ突き出した状態で、奥歯の咬み合わせは正常です。
この変形は歯と歯を支える歯槽骨の変形と考えられます。東洋人や黒人に多く、日本人ではありふれた変形です。あごの骨に対して歯が大きいことが前歯突出の一因とも考えられます。前歯の傾きが強く、上顎と下顎の前歯のなす角度が小さいのが特徴です。口元が突き出て、いわゆる“出っ歯”に似た変形となります。口元が突き出ているので相対的に鼻は低く見え、また、下あごの先端であるオトガイ部も後退して見えます。くちびるの赤唇部と呼ばれる部分は厚く見えます。
また、前歯が突き出ているため、くちびるは閉じにくく、努力してくちびるを閉じようとするため、オトガイ部には梅干しのようなシワが見られます。
2.治療
治療には矯正歯科的な治療と手術療法の2つがあります。軽度の突出は矯正治療で歯を抜かない方法で治療が行われます。しかし、前歯の突出が明らかな例では、矯正歯科治療と手術療法に関わらず、側方の歯を抜いて前歯部を後方に移動します。通常は第1小臼歯といわれる前から4番目の歯を抜きますので、上顎と下顎で合計4本の歯を抜くことになります。矯正歯科治療による方法は手術をせずに済むことが最大の利点ですが、治療には時間がかかります。
手術では抜歯した部分の骨を切除して、前歯部分を後方に移動します。手術の利点は抜歯も含めて一回で後方移動が行われるため短期間で治療が終わることや、前歯部分の移動方向を自由に決めることができることにあります。しかし、欠点は全身麻酔での手術と入院を要することです。また、手術後に矯正治療を行うこともあります。奥歯は手術の影響を受けませんので、手術後も食事や安静はそれほど制限されません。
3.治療による期待される効果
突き出た前歯部分が後方に下がることで容貌の改善が得られます。鼻の先端とあごの先端を結ぶ線をエステティック・ライン(esthetic line)と呼び、この線上かやや後ろに下くちびるが位置するのが美しい顔貌であると言われています。両顎前突症ではこの線よりもくちびるが前に位置していますが、治療によってくちびるの位置が下がり、この線上に近くなることで顔全体の印象が良くなります。相対的に鼻は高く見え、オトガイ部も突出して見えます。赤唇部は薄くなり、くちびるが閉じやすくなります。

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